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第3級陸上特殊無線技士 無線工学ポイント集No2

第4章 変調方式

  アンテナの長さは一般にλ/2で使用されますが、そうすると低い周波数ではとても長いアンテナが必要になります。例えば、音声帯域である3kHzで使用しようとすると、λ=100,000mですので、50kmの長さのアンテナが必要という計算になります。

 ということで、実際はとても高い周波数(搬送波という)に、音声などの信号を乗せて、短いアンテナで電波を飛ばす方法がとられています。

 搬送波に信号を乗せる操作方法には、音声信号等の大きさに応じて搬送波の振幅を変える振幅変調AM:Amplitude Modulation)、搬送波の周波数を変える周波数変調FM:Frequency Modulation)、デジタル信号(0又は1で情報を表したもの)等に使用される位相変調(Phase Modulation)があります。

(1)振幅変調

   下図のように搬送波の振幅部分に音声などの信号波を乗せる操作をAM変調器で行い、高い周波数の搬送波でアンテナから送信します。従って、AM送信機(A3E)では、音声信号で変調された搬送波の振幅が音声信号に応じて下図のように変化します。

注:A3Eとは、電波の型式を表記したもので、  
   A:AM
   3:デジタル信号で1CHのもの
   E:電話
 で使用していることを表しています。

 

(2)周波数変調
  下図のように搬送波の周波数を音声などの信号波の大きさに応じて変化させることにより、伝達する方法です。

  注:sin、cosで記載されている内容は、参考です。3陸特では理解できなくても大丈夫です。

①FM変調の最大のメリットは、⇒ノイズ(雑音)に強い。
  FMは周波数の変化で信号を送信していますので、雑音が乗っても大きな影響はありません。AMに比べて雑音の影響が少ない変調方式です。

②しかし、搬送波の基準周波数を中心に信号波に応じて周波数を変化させていますので、必要な周波数帯幅(占有周波数帯幅)は広くなってしまいます。

(3)デジタル変調

 デジタルとは、下図のようにアナログの音声信号等を電圧のある(1)/なし(0)に変換して伝送する方式です。受信側では、逆に0,1信号を元のアナログ信号に戻して元の信号を再生します。

※アナログ信号の瞬間瞬間の大きさ(左図の縦棒)の応じて、デジタル符号が割当られます。

 このように0,1信号で通信を行いますが、このままでは電波に載せて送信することができません。そこで、デジタル変調には、PSK(Phase Shift Keying:位相変調)等が用いられています。

①PSK
 PSKは0又は1の信号に対して、図のように搬送波の位相を”0”の時は0度、”1”の時は180度変えて伝送する方式です。従って、波形は下図のようになります。

 デジタル通信方式は、0または1の信号が判断できれば良いので、雑音の影響を受けにくく、また第三者から傍受されにくく秘話性が高いといえます。
 また、デジタル信号に一定時間内の“1”の数の合計などの情報を送信したりすれば、途中で0、1の判断誤りが発生したとき、再度送信するさせる等受信側で誤り訂正機能を持たせることができます。

 ただし、アナログ信号をデジタルに変えたり、誤り訂正処理等の信号処理を行うと時間がかかりますので、遅延が発生します

②QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)

 QPSKはを左図のようにデジタル信号の状態に応じて搬送波の位相を0度、90度、180度、270度ずらして伝送する方式です。
  PSKは位相の選択が0か180度のいずれかしかありませんので、1回の変調では、1ビット(0か1のいずれかなので1ビット)の情報しか送れませんが、QPSKは4つの位相を使えるので、1回の変調で2ビット(00,01,10,11のいずれかなので2ビット)の情報を伝送することができます。

(4)アナログ通信とデジタル通信

①アナログ通信の場合は、搬送波にそのままアナログ信号を載せるので、雑音の影響を受けやすいが、デジタル通信の場合は、0、1の判定ができればよく、多少雑音があってもその影響は小さくなる

②デジタル通信は、0,1データで通信するので、傍受しても簡単に復元することが難しい。またデータのスクランブル処理などを行うとさらに秘話性を高めることができる。さらに、0、1符号の伝送のため受信側でデータの誤り訂正処理が可能となる。

③デジタル通信の場合は、アナログーデジタル変換処理や誤り制御のための処理等信号処理に時間がかかるので、通信上の遅延が発生する。
   
※スクランブル:送受信の同期をとることや秘話性のためにデジタルデータ信号をある規則性に従って入れ替える操作をいう。

 

                ■■過去問■■

【1】FM送信機において、音声信号で変調された搬送波はどのようになっているか。
    1.断続している。  
    2.周波数が変化している。
    3.振幅が変化している。
    4.振幅、周波数ともに変化しない。                   
                                答え:2
※FMは信号に応じて搬送波の周波数を変える。

【2】次の記述は、アナログ通信方式と比べたときのデジタル通信方式の一般的な特
  徴について述べたものである。誤っているものを下の番号から選べ。    
     1.信号処理による遅延がない。    
     2.雑音の影響を受けにくい。    
     3.秘話性を高くすることができる。    
     4.受信側で誤り訂正を行うことができる。

                          答え:1
 ※デジタル通信は、信号処理に時間がかり遅延が発生する。


【3】次の記述は、デジタル変調について述べたものである。
  (  )内に入れるべき字句は次のうちどれか。
  
 「PSKは、ベースバンド信号に応じて搬送波の位相を切り替える方式である。
 また、QPSKは1回の変調(シンボル)で(  )ビットの情報を伝送できる。」    

  1、 5    2、 4   3、 3  4、 2  

                            答え:4(2ビット)

【4】次の記述は、アナログ通信方式と比べたときのデジタル通信方式の一般的な特徴
  について述べたものである。誤っているものを下の番号から選べ。        

  1.信号処理による遅延がない。
  2.雑音の影響を受けにくい。
  3.秘話性を高くすることができる。
  4.受信側で誤り訂正を行うことができる。                                    

                              答え:1

 

第5章 FM送受信機の構成

(1)FM送信機の構成

 FM送信機の一般的な構成を下図に示します。

 この回路で、発振回路は、搬送波を発生させる回路です。入力信号によりこの搬送波の周波数を変化させて周波数変調します(位相変調器)。

 IDC回路は、Instant Deviation Control(瞬時周波数偏移制限器)回路といい、周波数の偏移量が大きくならないように制御する回路です。つまり、大きな音声信号が入ってくると、その分搬送波の周波数が大きく変わることになります。あまり大きく変化することは機器の効率も悪くなりますし、何より貴重な電波の周波数を多く使ってしまうことになり不経済です。そこでIDC回路にて周波数の偏移量を制限しています。

 位相変調器にてFM変調された変調波は、周波数逓倍器にて送信可能な周波数に変換された後、電力増幅器にて増幅されてアンテナから送信されます。

 下図もFM送信機の構成例です。

周波数シンセサイザで搬送波を作っています。 

 周波数混合器は、周波数逓倍器と同様に電波として送信できる周波数に変換する回路です。

(2)受信機の性能

  受信機の性能を評価する尺度には、受信感度と選択度、忠実度がある。
  ①受信感度・・・どのくらい弱い電波まで受信できるかを表す能力
  ②選択度・・・・受信機が妨害波(不要波)をどの程度分離して、目的の信号(希望
         波)を受信することができるかという能力。
  ③忠実度・・・・送信された信号を受信し、受信機の出力側で元の信号がどれだけ忠実
         に再現できるかという能力。

(3)FM受信機の構成

 上図は、スーパヘテロダインFM受信機の構成を示したものである。スーパヘテロダインFM受信機の場合、周波数変換部において受信した高い周波数を一旦処理しやすい中間周波数に変換する。
 その後、FM復調器にて音声信号を取り出したのち増幅してスピーカから出力する。

 スケルチ回路は、入力信号がないときも増幅されるので、雑音が増幅されてザーというノイズがスピーカから出力されるため、これをカットすることができる回路である。

 FMの復調器には、周波数弁別器などが利用されている。周波数弁別器は、受信電波の周波数の変化を振幅の変化に変換して、信号を取り出すものである。

                ■■過去問■■

【1】搬送波を発生する回路は、次のうちどれか。   
  1. 発振回路  2. 増幅回路  3.変調回路  4.検波回路
              
                          答え:1   
 ※搬送波を発生させる回路は発振回路。増幅回路は増幅、変調回路はFM
  等に変調する回路、検波回路はFM変調波から信号波を取り出す回路である。  

【2】次の記述の(  )内に入れるべき字句の組み合わせで、正しいのはどれか。
  「FM(F3E)受信機において、相手局からの送話が( A  )とき、受信機から
   雑音が出たら( B )調整つまみを回して、雑音が消える限界点付近の位置
   に調整する。」          
       A     B
   1.  有る   スケルチ
   2.  有る   音量
   3.  無い   スケルチ
   4.  無い   音量      

                            答え:3
   ※スケルチ回路についての説明である。

【3】スーパヘテロダイン受信機の周波数変換部の働きは、次のうちどれか。
   1. 中間周波数を音声周波数に変える。
    2. 音声周波数を中間周波数に変える。
    3. 受信周波数を音声周波数に変える。
    4. 受信周波数を中間周波数に変える。                                           
                            答え:4  

【4】FM(F3E)送信機において、IDC回路を設ける目的は何か。
   1.寄生振動の発生を防止する。
   2.高調波の発生を除去する。
   3.発振周波数を安定にする。
   4.周波数偏移を制御する。                                            
                            答え:4
※IDC回路は、周波数の偏移量が大きくならないように制御する回路である。
 寄生振動とは、基本周波数以外の周波数が無線機の回路にて発生するものをいう。   

【5】FM受信機における周波数弁別器を説明しているのはどれか。
   1.電波の周波数の変化を振幅の変化に変換して、信号を取り出す。
   2.受信電波の振幅を一定にして、振幅変調成分を取り除く。
   3.近接周波数による混信を除去する。
   4.受信電波が無くなったときに生ずる大きな雑音を消す。                                            
                             答え:1
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東京でんき塾
講師経歴:NTTを退職後、法政大学理工学部で電気主任技術者系の発電機、電動機、高圧装置などの実験を担当。現在はフリーの講師等として活動中です。 所有資格:電気通信主任技術者、電気通信工事担任者(総合種)、第1級陸上無線技術士、電気主任技術者、ネオン工事技術者、電気工事士など多数。